ログイン前世で陰キャだった俺。 目覚めたらそこはギャルゲーの世界――しかもお調子者でおバカキャラの王子だ。これはもう転生デビューするっきゃないだろ!と、思いきや。 「残念だったな、お前はこのまま俺と結婚するはめになるんだ」 「あんたこそ残念だったわね。誰にも相手にされなくて!」 悪役令嬢の異名を持つラビッツ・ロマンシカまで転生者だとは思わなかった。婚約者として共に過ごすうちに距離は縮まっていき──。 「俺はっ……その、お前がいいんだ」 「調子いいことばっかり言わないで」 ゲーム名は 『星が空へと昇る世界で 〜Last Memory〜』 人の想いが光となって空へと還るこの世界で、俺はたくさんの輝きを見つける。
もっと見る「…………っ」
とめどなく涙が溢れる。
今は夜中。家族はもう寝静まっている。泣き声を漏らさないように、そっとバスタオルで顔を拭いた。バスタオルはびしょ濡れである。
パソコンの画面には、三人の親子が映っている。ギャルゲーの主人公であるリュークとメインヒロインのルリアン。そして二人の子供だ。
「幸せにな……」
つい声が漏れた。まぁ、これくらいじゃ隣の部屋の兄貴も起きないだろう。
エンディング曲『あなたに会える日まで』を聴きながら、俺はスマホを手に取った。このギャルゲーを勧めてくれた友人にメッセージを送るためだ。
『攻略した。最高だよ。泣きゲー界の神だ。マジで泣いた。感動だ。曲も神がかってるな。これから曲を聞くだけで泣きそうになる自信がある。ただ、全員攻略しないとこのアナザーストーリーが解放されないのだけは辛いな。お前が勧めるから頑張ったけど――』
長すぎるか。
長すぎるな。
冷静になり、「全員攻略しないと」の下りからは消して送信した。気の合う友人には、つい長文で送ってしまう。我ながらウザくて引かれそうだという自覚はあるので控えめにはしているつもりだ。
俺は陰キャだ。常にクラスで気の合うのは一人か二人。感染症が流行る時期は誰とも話せない日がある。だから、どうか友人が今日も健康でありますようにといつも祈っている。
ただ、挨拶くらいは普通にする。社会不適合者ではない。学校外で誰かと遊ぶことがないだけだ。「うぇーい」とはしゃぐ陽キャなクラスメイトたちを、羨ましさを隠して薄ら笑いで見ている側だ。
「でも、俺にはゲームがある。語り合える友人もいる」
スマホに通知がきた。友人もどうやら起きていたらしい。
『お、終わったか。最高だろ。でもお前は、ラビッツアフターが欲しいんだよな。分かる分かる』
メッセージを読むなり頷いて、『それな』のスタンプを押す。俺がもっとも好きなのはルリアンではなくラビッツ・ロマンシカだ。
今見終わったアナザーストーリーは、リュークとルリアンが両想いになってからの話。このメーカーでは、メインではない他のヒロインとのイチャイチャなその後の話を「〇〇アフター」という商品名で発売することがある。
ただ、ラビッツの人気は低いんだよな……。発売される可能性はおそらくゼロだろう。
最後にラビッツを見てから寝ようと、回想画面からオープニング曲を再生した。
冬の学園がモノクロから少しずつ色づく。
雪がひとひら。
またひとひら。
光の球が空へと昇っていく。
透明感のある歌声に命が吹き込まれるように、タイトルが表示される。
『星が空へと昇る世界で 〜Last Memory〜』
レッドブラウンの髪と紫の瞳のラビッツ・ロマンシカが名前と共に現れ、台詞が表示される――。
『あの日の約束、覚えてる?』
ラビたーん!!!
その神台詞に、もう一度涙がこぼれた。まさかその台詞が、あのアナザーストーリーに繋がっているとはな!
リュークとルリアン、そしてリュークの大親友であるニコラとラビッツがいてこそのアナザーストーリーのあのラストだ。
うぉぉぉぉぉ!!!
ラビッツへの愛を深くしながらヘッドホンを置き、パソコンの電源を落とす。濡れたバスタオルとスマホを持って布団へと潜り込み、設定資料集を電子マネーでポチッと購入した。
――主人公の親友であるニコラ・スタッドボルトに転生するのは、この日から一週間後のことである。
◆
ついにこの日が来たか。
王立魔法学園の入学式だ。
日本のゲームだからか、桜が咲き乱れている。俺の頭にはジャパリス国から輸入された花だという、前世とはまったく違う知識が埋め込まれている。
前世では、トラックに轢かれそうな子供を助けてあの世行き――というベタな最期を迎え、気がついたらこの世界にいた。俺を育ててくれた両親にも、クラスでたった一人の友人にも申し訳ない。せめて、助けたあの子が無事でいてくれたらと願う。
この半年間、大変だった。
ニコラの身分は王子。
記憶を引き継いでいるとはいえ、混乱していた俺を皆が支えてくれた。人前で話す訓練などのスパルタ再教育により、やっとニコラらしさが板についてきた。
公では王子らしく振る舞うものの、プライベートではお調子者のおバカキャラ。「泥船に乗った気で俺様に任せとけ!」が口癖の憎めない奴。それがニコラだ。
――そして今日、あのゲームの舞台が始まる!
陰キャな俺とはオサラバだ。誰も前世の俺を知らないこの世界で、リア充としての日々が幕を開ける。
今日が俺の転生デビュー初日だ!
期待に胸を膨らませ――といきたいところだが、足がガクブルだ。王子としての訓練とは違う緊張感がある。なにせここには、最推しのラビッツがいるのだから。
「おいおいニコラ、顔が真っ青じゃねーか。大丈夫かよ」
「大丈夫だ。俺は王子、問題ない。俺は王子俺は王子俺は王子……」
「全然大丈夫じゃねーだろっ」
ポンッと俺の頭を小突いたのは、幼馴染で親友の騎士、リューク・ダイバーン。青い髪と瞳でクールに見せている。飄々としてるくせに仲間思いの、かっこいい奴だ。俺の悪ノリにも付き合ってくれる。
辺境伯家から預かる形で、王宮で仲よく過ごしていた。ここ何年かはリュークだけ騎士学校に入っていたのでしばらく会ってはいなかったものの、俺専属の護衛になるべき才能ある人材として育てられ、悪い扱いはされていない。本人は三男だから気楽でいいと呑気にしている。
そして――来るぞ。
俺の最推しが、もうすぐ!!!
会える日を待ち望んでいた、ラビッツ・ロマンシカ。平民出のルリアン・ウィービングと対をなす悪役令嬢。俺の婚約者なのにリュークの攻略対象であるせいで、一番不人気だった。
リュークに惹かれちゃダメ、ニコラの婚約者なんだからと切ない乙女心や葛藤や苦悩を抱えながらもツンツンしているところが激萌えなのだ。
今の俺の立場からすると複雑だが……。
そろそろだ!
そろそろ来るはずだ!
この世界では、ジャパリス国から輸入された悪役令嬢小説がなぜか流行っている。ゲーム制作者の遊び心だろう。ゲームの序盤でラビッツはルリアンにみみっちい嫌がらせをするので、小説になぞらえて「悪役令嬢」とみんなに言われてしまう。オープニングでは名前の上に『ツンデレ悪役令嬢』という異名が書かれていた。
まだ学園生活は始まっていないので、それを知っているのは俺だけだ。
今の俺はゲームとは違う。ゲームのラビッツルートのように、二人のキューピッドになるつもりはない。
どうにか転生デビューを果たし、ラビッツの心を俺に向けてみせる……!
「陰キャの俺には厳しいぜ……」
「昔の威勢はどうしたんだよ」
「俺様はナイーブなんだ」
「しばらく見ない間に、小さい男になっちまったなぁ」
「平均身長だよ!」
正直、ラビッツの婚約者であることを除けば、モブがよかった気持ちもある。王子という身分はメンタル面でもハードルが高い。半年間の訓練で様にはなってきたものの、楽じゃない。
しかし!
誰も俺を知らない世界でやり直しができるのは大きい!
「相変わらずのバカ王子っぷりね、ニコラ。リューク様もお変わりなさそうで」
来ったぁぁぁ!!
悪役令嬢、ラビッツ・ロマンシカ!
薔薇を形どったバレッタでサイドの髪を後ろで留めている。ゲームと同じく鮮やかなレッドブラウンの髪だ。ここでもバレッタから兎耳が生えているのはギャルゲー仕様だろう。
俺たち三人は幼馴染。ずっと仲よしではあるものの、俺とラビッツが婚約中で、ラビッツはリュークに恋をしているというなんともいえない三角関係だ。
「久しぶりだな。俺とリュークで扱いが違わないか?」
「あなたにはこれでいいでしょう。わざわざ丁寧にする必要ある?」
「婚約者なのに?」
「だからでしょう。私だって、婚約者じゃなかったらもっと敬意を払っているわよ」
「ひっでーなー」
前世でこんなに口の悪い貴族は創作ですらなかなかないだろうが……ここはギャルゲーの世界。制作者の趣味の世界だ。思う存分、ツンツンを味わえる。
「未だにプライベートでは言葉遣いが悪いのね」
「公私混同はよくねーよ」
「ふん。バカ王子!」
よし、いつも通りの会話だ。しばらくラビッツとも会っていなかったからな。挙動不審にならず、記憶の通りに振る舞えてよかった。ラビッツもツンツンしてくれている。
……でもな。
デレも見たい!
生でデレも見たいんだよ!
「リューク様も、えっと。ごきげんよう。久しぶりね。元気だった?」
頼むー。そんな恋する乙女みたいな顔を親友に向けないでくれー。しょっぱなから心が折れる……。
「水臭ぇよ、ラビッツ。元気そうだな。昔みたいにリュークって呼んでくれよ。調子が出ないぜ」
「そう呼んでいいならそうするわ。すごく逞しくなったわね。騎士学校も卒業したのよね」
「まぁな」
なんだよ、この俺だけ除け者みたいないい雰囲気は! ていうか、ゲームでもこんな会話聞いたな!?
いや、しかし前世に比べれば童顔ではあるものの俺はかなりのイケメンだ。金髪碧眼で顔はいい。おバカキャラだったし、ゲームのオープニングでも『お調子者なおバカ王子』という異名が表示されていたが、顔はいいんだ! 自信を持て、俺!
「じゃ、先に行くわね」
今は入学式のために門をくぐってホールへと歩いているところだ。桜の花びらが風に揺れる。柔らかい春の空気が俺たちを包む。
「待てよ、ラビッツ」
俺は彼女を呼び止めた。
「なに?」
「せっかく学園で一緒に過ごせるんだしさ、たくさん話そうぜ」
「……あんたとは、いつか嫌でもたくさん話さなきゃならない日がくるじゃない」
結婚したらってことか。ガックリくるな。彼女の心を俺に向けるなんて、できるのだろうか。陰キャだった俺なんかに。
「ねぇ」
ふふっと彼女が俺たちに意味深に微笑んだ。風に舞い散る花びらの中に佇む彼女はどこか幻想的だ。
――俺は知っている、このシーンを。
澄んだ歌声がどこからか聞こえるようだ。あのオープニング曲『はじまりの|詩《うた》』は最高だった。せっかくのゲーム世界なんだから、音楽も流れてほしい。
さっきまでのツンツンな態度が嘘のような柔らかい笑みを浮かべて、彼女が小さく俺たちに向けて呟く。俺はその言葉も知っている。
「あの日の約束、覚えてる?」
きたー!
オープニング曲のキャラ紹介でも使われていた神台詞きたー!
ラビたん!
ラビたん!
ラビたん!
ラビたん!
ラビッツが踵を返して駆けていく。
俺はたまらずに叫んだ。
「ラビッツ!」
彼女が立ち止まる。
「俺、お前が好きだから! 絶対にお前を振り向かせるから!」
俺は気づいたらゲームにはなかった行動をしていたわけで――もう一度振り向いた彼女は、なぜか無表情だった。
俺をじっと見つめたあとに、また前を向いて走り去っていく。
「青春だな」
ボソッと呟くリュークの言葉に、冷静になる。
「なぁ、リューク。その気のない婚約者に大声で好きだと言われた女ってどんな気持ちになると思う?」
「まぁ、迷惑だな」
「だよな……」
ゲームと同じ台詞を聞いてテンションがマックスに達してしまった。俺はアホだ……婚約者とはいえ、せめてもう少しあいつが俺を好きになってくれないと、迷惑すぎる。
自信はないけど。
「なぁ、リューク」
もう一度、地味に落ち込みながら話しかける。
「なんだよ」
「ラビッツの気持ちを理解したいから、さっきの俺の台詞を同じように叫んでくれないか」
「俺の趣味を疑われるだろ!」
そうだな、想像するだけで気持ち悪い。俺は主人公ではない。これからは気をつけよう。
ん?
あれは? リュークの背後からすごい勢いで向かってくるあれは?
「はわわぁ〜、遅刻遅刻ぅ〜!」
気づいていないリュークは前方の花壇をよけるように大きく右へずれた。俺はブロックに飛び移る。
リュークにだけ激突だ。
「ぐえっ」
やはり来たか……メインヒロインのルリアンだ。
「はわわわ。だ、大丈夫ですかぁ〜?」
薄い金髪でふわっふわの肩までの髪に、ピンクのリボンをつけた青い瞳のヒロインだ。ゲーム通り、リュークは体当たりをされてずっこけている。
「いてぇ……」
「リューク、お前騎士のくせになんで攻撃を食らってんだよ」
「後ろから不意打ちを食らうとは思わねーだろ!」
普段ならよけられたと思うが、そこはゲームの強制力か。まさにゲーム通りのヒロインとリュークの会話が始まる。
「ごめんなさい。あの、でも、私急ぐので! 行きますね!」
「おい、まだ入学式まで時間はあるぞ」
「私、挨拶をしないといけなくて。実はちょっとした打ち合わせがあるんです」
「は?」
「首席さんなんですよ、私。ルリアン・ウィービングと申します。ルリルリって呼んでもいいですよ」
「呼ばねーよ」
「あは、残念。では行きますね!」
きたー! 同じく、オープニング曲でのキャラ紹介にもあった台詞!
『ルリルリって呼んでもいいですよ』
きましたよ、コレ。
ああ、俺――本当にあのゲームの中にいるんだな……!
「ニコラ、お前だけ避けやがったな。ルリアンだっけか、首席だってな。お前、あれに負けたんだな」
リュークがもう小さくなったルリアンの背中を親指で指しながら、やれやれとため息をついた。
「うるせーよ!」
王子だから首席狙いでめちゃくちゃ勉強させられた。ゲームでもルリアンに首席をとられていたから無理だろうと思ったけど、周囲が期待するから頑張った。
そして、駄目だった。
ゲームの強制力には抗えない。少し挫折した。これからも定期テストでルリアンは一位をとり続ける。厳しいことは分かっている。
でも、いつか勝とうと思う。
ゲームの俺と今の俺は違うんだから、可能性はあるはずだ。もし勝てたら、ラビッツも見直してくれるかもしれないしな。才能は前世よりあるわけだし。
よぉし!
転生デビューの始まりだ!
他の攻略キャラの印象的な数々の台詞は、主人公と女の子が二人きりの時だったから俺は聞けないな……と思いながら、ホールへとまた足を踏み出した。
「どうしてこうなったんだろう」 家庭科実習室のお客様席で、『学園パトロール隊慰労会』の垂れ幕を見ながらリュークに問いかける。金をかけている学園だけあって、テーブル席エリアまで用意されている。 「たぶんお前のせいだろ?」「リュークたちは台車レースの時、先に戻ったじゃないか。むしろ、その時になんかあったんだろ?」「特には……あの侯爵家の次男、セヴォルトに『ベル子とルリルリの親衛隊をつくってもいいか』と聞かれたくらいだな」「それだろ! 早く言えよ!」 思いっきりファンクラブじゃないか! しかもルリアンまで!? やはり前世で人気のあった二人は男心をくすぐるのだろうか。「冗談だと思ったんだよ……」 原因をつくったのはお前だろうという目で見られる。あのあと、どんな会話があったんだ。 無事、変顔選手権イベントは起こらなかったようだ。顔が固定してしまった奴らが仲間と共に旧校舎に駆け込んでくるはずが、まったく来ない。おそらく俺たちの知らない間に、ただ皆で変顔をして遊ぶだけのイベントに変化したのだろう。 問題は、ロシアンルーレットお団子事件だ。これが……おそらく、この学園パトロール隊慰労会に変化した。 慰労されるほどの活躍はしていない。なにせ俺らは入学したばかりだ。単に「ルリルリとベル子に美味しいお団子を選んでもらおう審査会」とあからさまにするのはよくないと、パトロール隊を巻き込んだのだろう。「ルリルリさん、もうすぐできますからね!」「はい、楽しみにしています」「ベル子さんっ、たぶん会心の出来ですよ」「うん。頑張って」 隙あらばあの二人に話しかける料理好き男子たち……。俺たちと同学年の侯爵次男、セヴォルトが友人に呼びかけたようだ。 今回は一年生の方が多い。ちょうど新入生たちが仲よくなってきたところで、可愛い同学年の女の子と仲よくなれるチャンスをセヴォルトが持ってきた、というところだろう。 そんなわけで、慰労会だというのに最初に自己紹介までした。そしてどうやら、しゃべる猫であるトラを気になっていた奴も多かったらしい。「ほんとにトラさんは、なんでも食べられるんです?」「にゃーは特別な猫にゃん。なんでも持ってこいなのにゃん」「だそうよ。私が保証するわ」 トラもマスコットキャラとしてチヤホヤされている。丁寧語で話しかけられているのは、オリヴィアが
「よし、皆行ったな! それじゃ、オリヴィアとラビッツとトラ、交互に乗りな。俺が押してやるぜ!」「「結構よ」」「乗らないにゃん」「なんでだよ!」 自分も遊びたいと言い出せなかった貴族でありお嬢様でもある二人のために、トラはああ言ったんじゃないのか!? 天才的な俺の察知能力で理解して、このメンバーで残れるよう促したのに、なんで全員に断られるんだよ!「悪いわね。あなたたち二人と少し話がしたかったの。トラがああ言えば、残ってくれると思ったから」 なんだ。オリヴィアがトラにお願いしたのか……って、めちゃくちゃ仲よくなってんな。それに、俺の天才的な察知能力まで加味していたのか!?「単刀直入に聞くわ。二人とも、中身だけは違う世界から来たのよね? 元はこの世界の人間じゃない。違うかしら」「えっ」 ラビッツと顔を見合わせる。「……トラから聞いたのか?」 トラが別世界から来たのは疑う余地もない。そしてトラがもし同じゲームをプレイしたことがあるのなら、俺たちがゲームとは別人だと察することは容易い。「ニコラ様は以前のあなたとは全く違います。仲間思いではあったけれど、今ほど他の方を気遣えるような方ではなかったわ。ラビッツさんも、そんなニコラ様を気に入っている。そうでしょう?」「えっ、わっ、わたっ、えっと、そんなことっ」「答えなくてもいいわ。とにかく、おかしいと思ってトラに相談したの」「……なるほど」 トラがふふんと得意げに体を揺らした。「にゃーは最初から分かってたにゃん! あんなに変な目でにゃーを見る二人は、この世界の住人じゃないにゃん」「変な目ってなんだよ」「変な目は変な目にゃん」 それがどんな目かって聞いてるんだけどな。 「それに、二人がラブラブなんておかしいにゃん」 やっぱりゲームはプレイ済みか。「そっ、そんなっ、ラブラブなんて、そ、そんなこと、な、ないし!」 うぉぉ。赤い顔してツンツンするなっ。さっきからラビッツが可愛すぎる。正常でいられなくなるから話を変えよう。「にゃーにゃーうるさいな。お前、男か女かハッキリしないよな。ついてんのか?」「うにゃにゃ!? ついてるわけないにゃん! こんなに可愛いドレスを着て男なわけがないにゃん!」「猫にドレスっておかしいだろう」「丸出しにする方がおかしいにゃん!」「ってことは、元は女性か。
「ベル子、大丈夫か?」 リュークが気遣うように声をかけた。ベル子はすぐにいつもの調子に戻ったように見えた。「平気」 そう言った声は落ち着いていたものの、どこか無理をしているような感じもする。 この様子……やはりリュークは既にベル子の事情を知っているのか。「私、吹っ飛んでいった方たちの様子を見てきますね」「私も行く」 ルリアンは治癒魔法が得意だからな。ベル子も、怪我の具合を見たいんだろう。「リューク、二人をよろしくな」「お前は?」「残った生徒たちに話を聞くよ」「頑張れよ、王子様っと」「肩書きだけはビッグな雑用係だよな。記録はラビッツに頼もう。この前のも綺麗にまとめてもらったしな。顛末を覚えといてくれ」 チラリとラビッツを見る。「し、仕方ないわね」 このツンデレ感! たまらない!「じゃ、あとでな」 リュークたちを見送ると、一度眠っていた見張りも指パッチンをして起こした。チョイチョイと親指で背後を差し「暴走していたから止めたんだ」と伝え、一緒に彼らのところへ行く。見たところ、一人を除いて全員先輩だ。「やぁやぁ、俺たちは学園パトロール隊だよ」「はい……ニコラ様、申し訳ありませんでした」 二十人くらいいる中で、スッと一人が前に出てきた。やはり貴族。俺の相手をするのは自分しかいないという自負があるんだろう。侯爵の息子で顔見知りだ。後ろにいる彼の弟が唯一の俺たちとの同学年だな。兄に誘われて羽目を外しに来たのだろう。「備品を勝手に使うのはよくないな。台車の持ち出し許可は?」「メンバーに園芸部の者がいまして。届いた備品を運ぶのに台車を使うと、倉庫の鍵をお借りしました」「なるほど。見張りもいたよね。静音魔法も張っていた」「……はい」「いいことをしている自覚はなかったと」「もうしません。すみませんでした」 楽しいことに水を差してる気分だな。「いっそのこと、競争クラブとかサークルでもつくればいいんじゃないか?」「へ???」「楽しそうだったしな。身分関係なく皆で遊ぶ、多いに結構だ。君はいい生徒だよ。ただ、嘘はよくない。放課後に特定の場所で何かの競争でもするサークルでもつくればいいじゃないか。ルールも決めて届けを出せばできる」「あー……」「速度メーターを備品で買ってもらって、危険回避の方法も明示すれば許可も下りるさ」 一定範
「はぁ……」 気が重い。黒子には俺の力を使うことは既に伝えてある。「よ! さっすが王子!」「うるせーよ」 リュークが茶化してくるが、乗る気すら起きない。憂鬱だ。しかしやるしかない。 今日は例の、生徒が持ち込んだ面倒事への対処……ではあるが、ゲームとは展開が少し変わっている。 魔力を見えない空間から自分へと戻すイメージで集める。柔らかく自然な光が俺を包み込んでいく。自分だけの力ではない。間違いなく外からの神のような何かに守られているのを感じる。 俺の内部に光が吸い込まれ、不自然な力を持つのが分かる。女神に祝福された、王族直系独特の力……あまり好きではない感覚だ。 よし、行くか。 皆に持っていてくれと手で合図すると、俺だけが校舎の裏へと進む。「やぁやぁ、ご苦労さま」「……あっ、ニ、ニコラ様」「大変だね。皆が遊んでいるのに君たちだけが見張りなんてね」「え」「悪いけど少しの間、眠っていてくれ」「…………っ。ぐう」 あー、疲れた。 おかしな力が手の平から放たれたのを感じると同時に身体の芯から倦怠感が湧いてくる。見張りはあっという間に地面に崩れ落ちた。催眠魔法だ。二人だから大したことはないけど、疲れるものは疲れる。 火や水や風を使うような基本的な魔法は、ほとんど疲れない。自然界と一体化しているような感覚で、腕や手を動かすくらいの意識だ。 特殊魔法は成長期が過ぎて大人になれば疲労感は減るらしいものの……俺のは特殊すぎるからな。どうなるのかは分からない。 さて、と。 俺はチョイチョイと手招きをして、隠れていた皆を呼び寄せた。「静音魔法も切れたよ。それが得意な奴が交代で見張りをしているのかもな……。あっちでワーキャー声がする。だるいけど行くか」「お疲れ様でした、ニコラさん」「ああ。俺は疲れたからあとは皆に任せるよ」「お任せくださいっ」 校舎裏といっても、ここはとんでもなく広い学園。道具入れや木々に挟まれた道を抜ければ、開けた場所が広がっている。 そこで生徒たちが羽目を外していた。「ぶっちぎりぃぃぃ!!」「うおおおおお! 追い抜いたるぞー!」「負っけねー!」 ゲームより平和だ……。俺達に気づいていないようなので、しばし見守ろう。「んっふーにゃん。にゃーがアドバイスしたお陰で平和な催し物になったにゃんね」 後ろから、思い